[新聞:岩手版]原木シイタケ昨年から出荷再開~復興へ強い気持ち~

農業共済新聞岩手版・東北営農技術版

[新聞:岩手版]原木シイタケ昨年から出荷再開~復興へ強い気持ち~

[2016年10月4週号 岩手版]

2016-10-04-41

まもなく始まる秋の収穫を楽しみにしている岩渕さん

【一関市】東日本大震災で発生した原発事故による放射性物質の影響で、出荷制限を強いられた一関産原木シイタケ。一関市大東町の岩渕謙一さん(67)は、除染処理など生育に安全な環境を整え、原木シイタケの出荷を昨年から再開した。幾多の試練を乗り越え産地復興に向けて、大きな一歩を踏み出している。

広葉樹林が広がる一関地域は県内有数のシイタケ産地として知られている。原木シイタケを40年以上栽培する岩渕さんは、優れた品質を競う「全国乾椎茸品評会」で農林水産大臣賞に輝いた実績をもつ、地域を代表する生産者だ。

東日本大震災で発生した福島第一原発事故で、岩渕さんを取り巻く環境は一変した。震災後に市内のシイタケやホダ木(シイタケの菌糸を植えた原木)を検査したところ、基準値を超える放射性セシウムを検出。2012年4月に国から同市産原木シイタケの出荷が制限され、産地は大きく揺らいだ。

12年10月に県は、国の指針に基づいた生産により放射線量が基準値を下回る場合に限り、国に出荷の個別解除を求める方針を表した。再生産を決意した岩渕さんは、ホダ木8万4千本の処分と、ホダ場(ホダ木を置く場所)の腐葉土500㌧の除染処理を実施。その努力が実り、露地ホダ場1カ所とハウス4棟で出荷再開を果たした。

明るい兆しが見える一方、不安な面も拭いきれない。山の立ち木をホダ木に利用できないため、岩渕さんは県北地域や秋田県から原木を調達。震災で福島県の原木も使えないことから品不足が続いており、価格が震災前の倍以上に跳ね上がるなど、再生産の妨げになっている。

2016-10-04-42

ホダ場1カ所に約3千本のホダ木を保管。今後は、出荷可能なホダ場を増やしていく意向だ

風評被害は収束したものの、安価な外国産の流通で国産価格が停滞するなど、国内市況はさえない。震災後に市内の生産者の7割以上が廃業を決断し、再生産を希望する約半数が今も出荷ができないなど、復興は道半ばだ。

岩渕さんは、どんなに時間がかかっても地元のナラ林を再生し、元の生産サイクルを取り戻すことを強く望んでいる。根底には山の恵みに対する感謝の気持ちと畏敬の念がある。「半生をささげてきた仕事をあきらめずにやり遂げることで、地場産シイタケを求める消費者の期待に応えたい」と決意は固い。


ページ上部へ